2011年8月22日月曜日

坂の上の雲ー植民地主義と戦争の悲惨さに怒りを感じつづけさせられる全8巻

BookOffで買い込み7月にスタートして今週やっと第八巻を読み終えました。
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日露戦争という大きな歴史の渦に吸い込まれながら読み進めました。

この長編歴史小説は「日本がどのようにしてロシアに勝ったか」という歴史を考えるために書かれているのですが、その時代と人物への理解はかなり深まります。陸軍の秋山古好海軍の秋山真之という実在の兄弟の伝記を中心に書いているので、明治維新初期の教育制度、留学、外交、軍事制度、庶民生活などについてイメージが持てるようになりました。特に伝統的な古典教育から西洋の技術を取り入れるための近代化教育への転換が説明されていてとても興味深かいです。日本がロシアに勝った要因は天佑も含めたくさんあったことがこの小説から見えてきますが、一つの大きな要因は日本が優先的に行った教育の近代化と専門家養成のための留学の成功だっとと言えるのではないかと思います。このあたりは今後もまた研究してみたいと思います。

フィクション的な部分もいろいろあるのでしょうが、司馬遼太郎先生は文献研究をとても丁寧に行いながら書いている印象を受けます。中国など周辺のアジア諸国が欧米列強に植民地化されていく状況の中で、明治維新後の日本が経済と軍事を必死に発展させてロシアの東アジア侵攻を食い止め戦勝国となり、世界の列強の一つとある程度認められた、という事実はその後の日本の発展に良い意味・悪い意味の両面で大きな影響を及ぼしたことは確かです。

しかし悲すぎる歴史です。日本、ロシア、そして間に挟まれた満州や朝鮮の数万人の命の犠牲があり、涙を滲ませながらしか読めません。ロシア皇帝の植民地拡大主義を阻止するために朝鮮や満州における戦争が必要だった、ということは完全に賛成できないにしても現実的に見て理解できます。知識が浅いので他の文献も読まないと言い切れませんが、その当時の欧米諸国は弱肉強食の原理で次々と世界の国の主権を奪っていましたから、日本も立ち上がるしかないと決断したのでしょう。この小説を読んで以前以上にその必要性を理解できた気はします。日本帝国としては「日本を守った」大勝利として捉える気持ちは分かります。しかし朝鮮や満州の人々は二つの外国に主権と生活を侵害されましたし、日本(死傷20万以上)とロシア(死傷17万以上)の兵隊たちも皇帝の欲による侵略戦争と外交手段の失敗のために犠牲にされました。悲惨すぎる歴史です。どんな戦争にも「勝利」という言葉は不適切だな、と改めて思わされました。

つい100年ほど前の話です。二度とそのような無駄な殺し合いがないようにするにはどうしたら良いのか、学校や家庭で話し合われなければならないと思いました。小説や映画を通して戦争の事実を被害者の観点から勉強し、事実関係をただ暗記するだけではなく、そのような歴史を起こす人間の個人や組織の性質について「どうして?」と考え、今後同じ間違えを繰り返さないようにしなくてはなりません。そのための教育体制と心がけは日本や他の国々で十分にできているのでしょうか?

私は小学校の頃(長野県浅科村、今は合併で佐久市)で通っていました、担任の中原先生の熱心な反戦教育・平和教育を受ける機会がありました。同時私は何故かその反戦教育が嫌いだった記憶があります。例えば、今も忘れられない授業としては東京大空襲で死んだ10万人という被害者の数を実感するために、模造紙の方眼を10万枚、はさみで切りとって、色を塗って「二度と戦争をおこさない」(確か)という横断幕のモザイクを作りました。数日の授業時間を使い、私はそれが面倒で無駄に思えて嫌でした。ただでさえ、戦争の間違えを考えることよりも格好いい軍艦や戦闘機の図鑑を見る方が好き(その年齢の男には多いと思います)だったり、歴史を読む時、他を侵略して大帝国を築くアレクサンダー大王、ジンギスカン、織田信長など、他を制服する強い国や人物を尊敬する傾向がありました。でもその時に受けた平和教育は今は必要で正しいものだと思いますし、深い印象が残っているので、中原先生には感謝の気持しかありません。

戦争で被害にあったことがない我々、授業やテレビで戦争の辛さや犠牲の大きさを知っても、多くの場合は実感がなく、その悲惨さを心に留めることができないのでしょう。私が受けたような徹底した平和教育はすべての国の学校と家庭において必要なのではないでしょうか。アメリカはそれをかなり欠いているのが現実で、大きな問題だと思っています。兵力という手段は防衛の目的でも最後の最後の手であり、必要な場合は使うが、その防御が成功しても人が死んでいる場合はお祝い事ではない。そういう教育を自分の子供には徹底したいと思います。

坂の上の雲の最終巻最終章、ロシアのバルチック艦隊を日本海海戦で全滅させ圧倒的勝利をおさめた時、秋山真之に喜びはない:


「秋山真之がそういう調子であるため、他の幕僚たちは大声をあげてはしゃぐわけにもいかず、ぜんたいの空気は病院の手術室のようにしずかだった(p.271)。」

損害 (from Wikipedia)
日本側
戦没88,429人,
うち戦死戦傷死は55,655人[1]
病死27,192人
負傷者153,584人[2]
ロシア側
戦死25,331人
病死11,170人
戦傷死6,127人
負傷146,032人
[3]

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